(今回の記事で使われている写真は、伊藤さんの許可の元、サイトfacebookの投稿から利用させていただいてます。)

司法書士さんからお酒のラベルデザインを依頼されるふしぎ

縁あって仲良くさせていただいている、大阪・北浜の「いとう事務所」の伊藤薫さんは、遺言書、相続関係を中心に活躍している司法書士/行政書士さんです。

通常の法律家としての業務に加え、『終活』の啓蒙活動にも積極的で、エンディングノートに関するセミナー活動、サイト内での講座記事も充実していたりと、柔らかい物腰と打って変わって大変熱いかたです。

そんな伊藤さんには、もう一つの顔があります。
お酒の泡盛好きが高じて、ワインのソムリエの泡盛版である「泡盛マイスターなる資格を持ち、こちらでの活動にも力を入れています。

その力の入れっぷりは、本業のサイトとは別に、泡盛マイスターとしての活動サイトを立ち上げてしまったり、Facebook上で泡盛の同好グループを主宰してたりと、こちらも熱いです。

日本泡盛マイスター技能競技大会の全国2位(2015年)に輝き、デパートの沖縄物産展でも沖縄から来られたスタッフに混じって泡盛セミナーを行われたりと、泡盛の伝道師として沖縄人以上に大活躍されている印象があります。

僕にとって「泡盛マイスター」と言えば、黄色いハッピを着た伊藤さんなんだけど、他の多くのマイスターは普通の格好をしている様です(笑)

泡盛好きが高じてオリジナル泡盛を作る事を決心

そんな伊藤さんのモチベーションは、大好きな泡盛の素晴らしさをもっと世の中に広めて親しんで貰いたい事にあります。

泡盛は、焼酎と大差無いアルコール度数なのに、沖縄の人の大酒飲みのイメージと合わさって、妙に強くてキツイお酒というイメージが先行してか、あまり飲まれていないのが実情のようです。たしかに飲食店でも焼酎等に比べて、あまり取り扱われているイメージはありませんよね。

しかし実際はそんな事はなく、泡盛がもっとみんなに親しんで貰える魅力的なお酒である事を知ってもらえるような商品を自分で作ろうと思い立つ事から、今回のプロジェクトが始まり、ラベルのザイン役として僕に依頼頂きました。

沖縄の新聞でも取り上げられました。
こういった試みはなかなか無いようです。

オリジナルのお酒を作って売る、とんでもなく高いハードル

今回の話をいただいた時、最初「自分が好きで作った音楽を皆に聞いて欲しい」からCDを出すミュージシャンのように、伊藤さんも「自分が好きで作った泡盛を皆に飲んで欲しい」ような物かなと受け取りました。 過去にインディーズミュージシャンの出すCDジャケットデザインとかに関わった事があるので、なんとなくそんなノリで捉えてました。

ところがCDと違い、お酒だと、販売に向けて大きな関門があります。
酒類販売免許を取得しなければいけないのです。 お酒その物の製造は沖縄、那覇市の名門酒造「久米仙酒造株式会社」で行うのですが、なるほど、たしかにお酒を自分で売るには免許も必要ですよね。ハードルの高さはCDとは比べ物にならない話なのは素人目にも明らかです(笑)

しかし、伊藤さんは法律書類作成のプロなので、一般人では難しい、新規で酒類販売業者としてはじめるための書類作成や審査もきちんとクリアして、酒類販売免許も取得されました。このひとの実行力やばい。

あっさり免許取得しちゃった。
「あわもりdeカリー!」のシールは伊藤さんの奥さんデザインだそうです。プロのデザイナーでは無いそうだけど、凄く使いやすく良いデザインでびっくり。

商品の詳細は付属のプロップス(お面)で乾杯している方々の楽しそうな写真一杯の、伊藤さんのサイトの「 つながるあわもりプロジェクト」のページを見てもらうとして、ここでは今回僕が実際にラベルのデザインを制作する上での流れを紹介してみます。

ラベルデザインの流れ

オリジナル泡盛の制作企画の段階で今回の話のイメージは伺っていた事もあり、制作の方向性で迷う事は無い案件でした。時間は掛かったけど(笑)

ヒアリングとラフイメージ作成

つながる」をキーワードに泡盛の良さをもっと沢山の人に知ってもらい、世間の泡盛に対する「強い、きつい」イメージを変える事を目指すのが商品コンセプトです。

このコンセプトの他、あったら嬉しい要素はこんな感じです。

  • 飲み会の一杯目の乾杯に飲みたくなる様なお酒らしいデザイン
  • 大阪発の沖縄を繋ぐようなイメージ
  • 泡盛同好コミュニティを巻き込んで一緒に盛り上げる様な物にしたい

……こういった要素が入れば良いなと希望いただきました。
こういった場では勢いが大事なので、打ち合わせ中にも、ラフなイメージを時折描いてイメージの共有を行います。

ヒアリングしながらのラフ描きを通して、デザインの方向性も決まってきました。
こんな感じです。

  • お酒っぽくない絵柄のデザインで興味を持って貰えるように。
  • イラストの登場人物は、全国の泡盛同好の方々を似顔絵キャラにして配することで、盛り上がり易い流れの形成を狙う。(似顔絵に登場した人はたぶん買ってくれて周りに勧めてくれるはず!の期待もありますw)
  • 仮想の沖縄料理と大阪料理の居酒屋でみんなで楽しくカリー(乾杯)しているイメージ。

多人数の似顔絵を入れる案は僕が提案した物です。自分が描くことになることなどすっかり忘れてただ、こうしたら盛り上がるだろうな、売れるだろうなの思いつきでした。
実際良い考えだと思うけど、なんで自分が後でヒーヒー言いながら描く姿が想像つかなかったのだろう?(笑)

打ち合わせ前後でのラフ案はこんな感じです。

打ち合わせしながら描いた最初のラフ。人数少ないけど多人数が楽しく乾杯をしている方向性はこの時点で確定。
第2ラフ。割とリアル目な構図で人を増やす事にしたけど、これだと後ろを向いている人が多くなり、20人くらいしか顔が入らない、良い意味で噓を入れた場面設定する必要が。

インディーズである以上、今回の販売規模的にデザイン案を沢山作った中から絞り込む様な制作の仕方がし辛い案件です。
しかし、幹となるコンセプトが固まっている上、制作の進め方はかなり自由にやらせて貰えるので、あとは一直線でイメージの具現化に向けて突き進みます。

この時点でラベルに似顔絵登場してくれる人を募った所、希望者が殺到して出演者枠が一瞬で埋まってしまいました。ラフ案を描いていた時点ではせいぜい20人くらいの気分でいたけど、もうこうなったら詰め込めるだけ詰め込んでやろうと腹を括ります(笑)

似顔絵出演者募集の際に描いた絵柄サンプル。
僕にとって、ある程度似せる事が出来つつ作業性の良い絵柄。

3DCGで構図の検討

本制作開始です。
とにかく賑やかな絵にしたいし、似顔絵で入れる人物はできるだけ多く入れてあげたいです。

単純に顔だけの似顔絵と違い、何十人もの人物が全員で乾杯している画作りを行う場合、どんな構図にすれば良いのか、悩むところです。

そこで、今回は3DCGでレイアウトを検討する事にしました。
オープンソース3DCGソフト・Blenderに簡単なモデルを作成し、ざっくりとポーズをつけて配置したときにいい感じにハマる構図ができれば勝ちです。

せっかく3DCGを使うのだから、カメラの位置やレンズの検討がしやすいメリットもフルに活かします。 レンズを魚眼レンズにすれば、かなりの人数を一度に映しこむ事が出来そうな上、円筒のボトルに貼るラベルとしても、いい感じに広がりのある画になりそうです。テーブルも見せやすいので、そこに大阪と沖縄を感じさせる料理も並べましょうか。

こんな雰囲気で作っていきます。

簡単な人物モデルを作り、ポーズつけ、それをコピーして1テーブル。そしてテーブルをどんどんコピーして調整し、魚眼レンズでレンダリング。

これで、50人くらいは顔が識別出来るレベルで入れる事が出来そうなレイアウトができました。

約50人の似顔絵を描き込む

このレイアウトを元に、下描きを描き込んで行きます。 ほとんどの人物は僕がお会いした事の無い人なので、facebookのプロフィール写真等を見ながら、似せるように努力しつつも、人柄を勝手に想像してポーズや表情に少しずつ変化を付けながら描いていきます。(正直、怒られたらどうしようかとビクついてたけど、良い反応が多かったので何よりですw)

描画記録動画を書き出せるiPadのアプリProcreateで描いていたので、その様子をどうぞ。

早送り動画で見るとすごいスピードで描いている様に見えますが、もちろんそんなことありません。
ただ実際、この辺は勢いが大事なので、気分的には「うぉりゃゃゃゃゃー」っと、どんどん描いていきます。
(途中で番号を書いているのは、どの場所に誰を描くのか記すためです。)

大分固まってきました。下描きはこれくらいでOKとしすます。

レイアウト調整のしやすいように、illustratorパスで清書する

もうそのままペイントソフトで仕上げるのもありだったけど、後に人物の配置換えがありそうだったり、商品ロゴも加える関係で、色々後調整しやすいデータ作りが得策と判断しました。 清書はillustratorでパスデータにする事にします。

シンプル目な絵柄とは言え、50人以上のキャラをパス化する超絶地味で時間の掛かる作業です。しかも自動化もし辛いので、これは腹をくくってちまちまパス化していくしかありません。

気が遠くなる作業なので、普段はできるだけ避けたい工程です。だだ、その気持ちとは裏腹に僕はこういう作業は超得意なので(笑)、気長にベジェをプチプチ打っていきます。

シンプルな絵柄でも密度がそれなりになるのでたいへん。illustratorだと、見えない部分まで描くことになりがちなので尚更と。

商品ロゴはモダンでありながらも、ちょいダサの親しみやすさを狙う

大まかにキャラクターが出来たところで、商品ロゴにも取り掛かります。 こちらも絵と併せて、どうするか思案してました。 最初、既存フォントをそのまま使用して組むつもりでしたが、あまり馴染むイメージがわかなかったので、僕自身が文字を描いてしまう事にします。

文字の形は、近年リリースされたモダンな形の日本語フォント数種類を並べて参考にしつつも、今回の絵柄にあった、親しみやすい物を目指します。あまりカッチリとは組まず、ちょっと崩してダサめの味付けにする位の方が良さそうに感じました。

絵の完成度が上がってきた時点から商品ロゴを書き始めたので、ここはあまり迷うポイントにはなりませんでした。

沖縄と大阪っぽい要素で飾って完成!

人物と商品ロゴが完成したら、あとは沖縄と大阪っぽい要素を料理、食材、キャラクターとして散りばめます。

このチョイスは結構迷って、首里城や大阪城といったランドマークも入れたくなるも、時間的に諦めたり、くいだおれ太郎やビリケンさんを入れたくなりつつも、実は権利面でダメだという事に気がついたりと、なんでもかんでもという訳にはいきません。
シーサはー描きやすい、通じやすい、権利面大丈夫だったりと優秀(笑)

沖縄感を出すための黒豚。キャラクターはひとつずつデザインしてます。画像検索した黒豚の画像をスケッチしてイメージを 固めつつ、自分なりの絵で構築していく。
あらためて確認すると、沖縄の色が強いメニュー構成。お好み焼も考えたけど、タコ焼きあるし、粉もの被りになるからどうかなーと除外(こんなところで変なこだわりが出る)。カニ鍋位は追加してもよかったかも。てっちりは絵で表現しづらいからパス(笑)

追加要素が上手く馴染むように調整を加えて完成!

実際にラベルが貼られた瓶は、伊藤さんのサイトで見れますよ!(ステマ)

伊藤さんのご好意で、乾杯の輪の中に僕も入れさせてもらったり、棚の上にある瓷(かめ)に入った泡盛のラベルに「大石制作」と入れさせてもらってます。
唯一後ろを向いている人物は、このお酒を購入してくれた人自身であり、みんなで乾杯したいと言う意図が入っている、僕と伊藤さんの暖かさに感動するポイントです(笑)

「泡盛でカリー!ブレンド」はガチでうまいよ!

完成した「泡盛でカリー! ブレンド」のアルコール度数は12度と、一般的な日本酒(15〜16度)より低い、とにかく飲みやすいお酒です。
なので、普通にお酒が好きな人なら冷やしてストレートやロックで飲むと、高級日本酒や焼酎のような口の中をサラッと通り抜ける様な上質で爽快な飲み口ながらも「泡盛の味」も実感する事の出来る絶妙のブレンドです。これ、贔屓目無しで本当に美味しいですよ!

お酒が苦手な人は炭酸で割って、さらにアルコール度数を下げてもいい感じです。シュワシュワに混じってほんのりと泡盛の香りと味を感じる事が出来るので、僕も好きな飲み方です。

個人的に、泡盛と言うのはどのお酒よりも懐の深いお酒だと思っています。個々人で好きな飲み方、料理と組み合わせて自由に楽しませて貰える印象を持ってます。「泡盛でカリー!ブレンド」は大阪で活動する伊藤さんの感性で、その懐を更に深くした逸品と言えるでしょう。

そして、インディーズ生産(笑)の商品性質上、いつまで買える物か分かりません。
ここまでの紹介で気になったらぜひどうぞ!→ 泡盛でカリー!オンライショップ

オンライショップで注文すると、大阪・北浜から通常業務の合間を縫って伊藤さん自身の手で配送してくれます。
大阪・福島の沖縄料理屋「がじゅまる食堂」さんなど、一部居酒屋等では泡盛でカリー!ブレンドを注文して体験することもできます。お近くのかたはぜひ!

商品の販売戦略から関わるデザインのご依頼もお待ちしています

「泡盛でカリー!ブレンド」は、伊藤さんの努力と支えてくれる周りの方々のおかげで、めでたく第一回分の生産分が完売し、現在第二回生産分が販売開始されています。

こういった、販売戦略から関わるデザイン制作も大歓迎なので、お気軽に相談くださいね!

僕としても、一生懸命楽しく取り組ませていただいた案件なので、本当に応援しています。この記事を読んで、今度泡盛を見かけたら、今回の泡盛でなくとも、ちょっと飲んでみようかなと思える人が増えれば幸いです。